Midjourneyは“泥棒”なのか?ワーナー・ブラザーズが著作権侵害で提訴。AI画像生成の未来が変わる日

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「AIで画像を作るのって、本当に大丈夫?」

画像生成AIの代名詞ともいえる「Midjourney」。その驚くべきクオリティに、仕事や趣味で活用している30〜40代のビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。しかし、その裏側で今、クリエイティブ業界の根幹を揺るがす、まさに“歴史的な裁判”が始まっています。

2025年9月、映画『バットマン』や『ハリー・ポッター』でおなじみの巨大エンターテイメント企業、ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)が、Midjourneyを著作権侵害で提訴しました。ディズニーやユニバーサルといった他のハリウッド大手も同様の訴訟を起こしており、これは単なる企業間のいざこざではありません。 これは、AIとクリエイターの未来をかけた、全面戦争の幕開けなのです。

この記事では、この複雑な訴訟の核心を、専門用語を避けて分かりやすく解説します。なぜワーナーは激怒しているのか?私たちのAI利用にどんな影響があるのか?そして、AI画像生成ツールの市場は今後どうなっていくのか? その未来を一緒に見ていきましょう。

ワーナーの怒り爆発!「Midjourneyの成功は“大規模なコンテンツ窃盗”の上にある」

ワーナーがカリフォルニア州連邦裁判所に提出した訴状の言葉は、非常に痛烈です。

「Midjourneyは法を超越していると考えている」

「その商業的成功は、スーパーマンやバットマンといった有名キャラクターの“大規模なコンテンツ窃盗”の上に成り立っている」

なぜ、ここまで強い言葉で非難するのでしょうか? ワーナー側の主張のポイントは2つあります。

ポイント1:AIがキャラクターを「記憶」しすぎている

Midjourneyに「バットマン、ダークナイトからのスクリーンキャップ」と入力すると、クリスチャン・ベールが演じた特定の映画のバットマンが、驚くほど忠実に再現されてしまう――。訴状では、これが動かぬ証拠として提出されました。 これはAIが「バットマン風の絵」を描いているのではなく、特定の著作物を「記憶(Memorization)」し、ほぼ完璧に「複製」していることを示唆しています。

AI企業は「人間がアートから影響を受けて学ぶのと同じ」とよく説明しますが、人間は一度見た映画のワンシーンを写真のように完璧に再現することはできません。 しかしAIにはそれができてしまう。この「記憶化」は、学習データの中に同じ画像が大量に含まれている場合に起こりやすい「過学習(Overfitting)」という現象と関係が深いと指摘されています。 つまり、Midjourneyはインターネットから無差別に収集した画像データの中に、ワーナーの著作物を大量に含んでいるのではないか、というわけです。

ポイント2:意図的に「保護機能」を外した?

さらにワーナー側が問題視しているのが、Midjourneyが一度は導入した著作権侵害を防ぐための技術的な保護機能を、後に「改善」と称して意図的に取り除いた、という事実です。 これをワーナーは、単なるミスではなく、利益を最大化するための計算されたビジネス判断であり、「意図的な侵害」の証拠だと主張しています。

競合はどこへ向かう?「安全なAI」と「リスクあるAI」の二極化

この訴訟は、Midjourneyだけの問題ではありません。画像生成AIの市場全体が、今まさに2つの方向に分かれようとしています。

「商業的に安全」なAdobe Firefly

Photoshopなどで知られるAdobeの「Firefly」は、法的リスクを徹底的に回避する戦略をとっています。 学習データは、自社のストックフォトサービス「Adobe Stock」のコンテンツや、著作権が切れた作品などに限定。 さらに、法人顧客向けには、万が一著作権トラブルが起きてもAdobeが責任を負う「IP補償」まで提供しています。 コンプライアンスを重視する大企業にとっては、非常に魅力的な選択肢です。

「慎重派」に転身したOpenAI (DALL-E 3)

ChatGPTで有名なOpenAIの「DALL-E 3」は、より慎重なアプローチにシフトしています。 有名なアーティストの画風を真似したり、著作権キャラクターの名前を入れたりすると、プロンプトが拒否されるよう、ガードレールを強化しています。 無制限な生成能力よりも、ブランドの安全性を優先する判断です。

「自己責任」のオープンソース Stability AI

オープンソースの「Stable Diffusion」は誰でも自由に使える反面、著作権侵害のリスクは基本的にユーザー自身が負うことになります。 学習データにウェブから収集された著作物が大量に含まれていることが知られており、Getty Imagesなどから実際に訴訟も起こされています。

各社のスタンスをまとめると、以下のようになります。

特徴MidjourneyAdobe FireflyOpenAI (DALL-E 3)Stability AI (Stable Diffusion)
学習データソース不透明(大規模なウェブスクレイピングと推定)ライセンス済みのAdobe Stock、パブリックドメインなど不透明だがShutterstockなどと提携LAIONなど公開データセット(スクレイピングデータ含む)
著作権ポリシー規約では侵害を禁じるが、モデルは侵害を許容「商業的に安全」な設計著作権キャラクター等の生成を積極的にブロックオープンソース(責任は主にユーザー側)
IP補償なし法人顧客にあり法人顧客にありなし

今後、企業ユーザーは法的リスクの低い「クリーンな」サービスへ移行し、市場は「高コスト・低リスクの法人向け」「低コスト・高リスクの個人向け」に、ますますはっきりと分かれていくことになるでしょう。

判決次第で未来は変わる!考えられる3つのシナリオ

この歴史的な裁判の結果は、私たちの未来をどう変えるのでしょうか?大きく3つのシナリオが考えられます。

シナリオ1:Midjourneyの勝利(AI開発がさらに加速)

裁判所がAIの学習を「フェアユース(公正な利用)」だと広く認めた場合、AI開発の足枷がなくなり、技術革新はさらに加速するでしょう。 しかし、クリエイターの権利は軽視され、自分の作品がAIに無断で学習され、仕事を奪うかもしれない状況が常態化するリスクもあります。

シナリオ2:ワーナーの勝利(AIツールの利用料が高騰)

Midjourneyの著作権侵害が認定されれば、同社は莫大な損害賠償に直面し、事業の存続が危ぶまれる可能性があります。 他のAI企業も学習データのライセンス料支払いを余儀なくされ、そのコストはサービス価格に転嫁されます。 AI画像生成の利用料は全体的に上昇し、一部の巨大テック企業だけが生き残る、という未来も考えられます。

シナリオ3:和解(新たなライセンス市場の誕生)

最も現実的かもしれないのが、このシナリオです。かつて音楽業界がNapsterとの闘いを経て、Spotifyのようなライセンスモデルを築いたように、AI企業が収益の一部をクリエイターに分配するような、新たなルールと市場が生まれる可能性があります。 技術の革新とクリエイターの権利保護を両立させる道です。

まとめ:AIを使う私たちに求められる「リスク認識」

ワーナー対Midjourney訴訟は、単なる大企業同士の争いではありません。 これは、新しいテクノロジーが登場するたびに繰り返されてきた、社会のルールと現実との摩擦そのものです。 この一件から、私たちが学ぶべきことは何でしょうか。

それは、AIツールを「リスク」という視点で選ぶ時代が来た、ということです。 これまでは出力の品質や使いやすさで選んでいたかもしれませんが、これからは「そのAIは何を学習データにしているのか?」「利用規約でどんなリスクを負うのか?」を厳しく評価する必要があります。

Adobeのような「安全」なツールにはコストがかかり、Midjourneyのような「強力」なツールには潜在的な法的リスクが伴います。 どのツールを選ぶかという判断は、あなたの、そしてあなたの会社のリスク許容度を示すことと同義になるのです。

この法廷闘争は、AI創作時代の新たなルールブックを作るための産みの苦しみです。 その最初の1ページが、今まさに書かれようとしています。私たちも、その歴史的な瞬間の目撃者なのです。

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